特殊相対論における µ 中間子の寿命

April 29, 2018, 1:46 p.m. edited Sept. 15, 2018, 4:49 p.m.

#相対論 

日報ではない1

場の量子論の本を読んでいたら当たり前のように特殊相対論が出てきて撃沈したので,今「時空と重力」を読んでいる.この中で,µ 中間子の話が相対論では珍しく現実に即した話のように思えたので,少しまとめてみる.

この本では µ 中間子の速さを後から出しているが,速さを先に出したほうが私としてはわかりやすいので,そこから始める.µ 中間子の速さを光速 \(c\) の \(0.9998\) (これを \(a\) とおく)倍,寿命を \(\tau=2\times10^{-6}\ {\rm s}\) とおく.このとき,非相対論的に考えると寿命の間に移動できる距離はせいぜい

$$ac\tau\simeq0.9998\times3.0\times10^8\ {\rm m/s} \times2\times10^{-6}\ {\rm s}\simeq6\times10^2\ {\rm m}$$

である.移動は 1 次元上のものを考える.これを µ 中間子から見た座標系 \({\rm S'}\) 上の座標で表すと,

$$ \begin{align} x' &= 0 \\ w' &= c\tau \end{align} $$

である.ゆえに,これは我々の座標系(\({\rm S}\))では,ローレンツ変換より,

$$ \begin{align} x &= \frac{x'+aw'}{\sqrt{1-a^2}} = \frac{ac\tau}{\sqrt{1-a^2}} \simeq 3\times10^4\ {\rm m} \\ w &= \frac{ax'+w'}{\sqrt{1-a^2}} = \frac{c\tau}{\sqrt{1-a^2}} \simeq 3\times10^4\ {\rm m} \end{align} $$

と表され,我々から見ると,µ 中間子は寿命が \(\frac{3\times10^4 {\rm m}}{c} \simeq 1\times10^{-4}\ {\rm s}\) にまで伸び,そして \(30\ {\rm km}\) も移動できるということになる.したがって,µ 中間子は地上数十 \({\rm km}\) の上空で発生するにもかかわらず,地上にまで到達することができる,ということである.


  1. 日報は,おしまい