Z⊗Z測定とは【量子計算】

Jan. 7, 2024, 6:56 a.m. edited Jan. 7, 2024, 2:07 p.m.

#量子情報  #数学  #量子力学 

$$ \def\bra#1{\mathinner{\left\langle{#1}\right|}} \def\ket#1{\mathinner{\left|{#1}\right\rangle}} \def\braket#1#2{\mathinner{\left\langle{#1}\middle|#2\right\rangle}} $$

\(Z\otimes Z\) 測定 ≠ \(Z\otimes I\)測定してから\(I\otimes Z\)測定。これを知らなかったのでメモ。

そもそも測定とは

ある物理量 \(A\) の固有状態に量子状態を射影して、その固有値を古典計算機で得るのが測定。

だから、よく馴染みのある \(Z\) 測定とは、

$$Z=\begin{bmatrix}1&0\\0&-1\end{bmatrix}$$

について

$$\begin{bmatrix}1&0\\0&-1\end{bmatrix}\begin{bmatrix}1\\0\end{bmatrix}=1\begin{bmatrix}1\\0\end{bmatrix},\quad \begin{bmatrix}1&0\\0&-1\end{bmatrix}\begin{bmatrix}0\\1\end{bmatrix}=-1\begin{bmatrix}0\\1\end{bmatrix}$$

ということである。同様に \(X\) 測定は

$$X=\begin{bmatrix}0&1\\1&0\end{bmatrix}$$

について

$$\begin{bmatrix}0&1\\1&0\end{bmatrix}\left(\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{bmatrix}1\\1\end{bmatrix}\right)=1\left(\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{bmatrix}1\\1\end{bmatrix}\right),\quad \begin{bmatrix}0&1\\1&0\end{bmatrix}\left(\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{bmatrix}1\\ -1\end{bmatrix}\right)=-1\left(\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{bmatrix}1\\ -1\end{bmatrix}\right)$$

である。ここで、 \(X\) の固有状態 2 つはすなわち \(H\ket{0}\), \(H\ket{1}\) を意味している。ゆえに、以下の 2 つの量子回路は等価である(測定後状態も正しくしたいなら、測定後にも \(H\) を作用させれば良い):

Z⊗Z測定

まず、テンソル積のおさらいとして

$$A=\begin{bmatrix}a_{0,0}&a_{0,1}\\a_{1,0}&a_{1,1}\end{bmatrix},\quad B=\begin{bmatrix}b_{0,0}&b_{0,1}\\b_{1,0}&b_{1,1}\end{bmatrix}$$

のとき、

$$A\otimes B=\begin{bmatrix}a_{0,0}B&a_{0,1}B\\a_{1,0}B&a_{1,1}B\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}a_{0,0}b_{0,0}&a_{0,0}b_{0,1} &a_{0,1}b_{0,0}&a_{0,1}b_{0,1}\\a_{0,0}b_{1,0}&a_{0,0}b_{1,1} &a_{0,1}b_{1,0}&a_{0,1}b_{1,1}\\a_{1,0}b_{0,0}&a_{1,0}b_{0,1} &a_{1,1}b_{0,0}&a_{1,1}b_{0,1}\\a_{1,0}b_{1,0}&a_{1,0}b_{1,1} &a_{1,1}b_{1,0}&a_{1,1}b_{1,1}\end{bmatrix}$$

である。ゆえに

$$Z\otimes Z=\begin{bmatrix}Z & 0\\0 & -Z \end{bmatrix}=\begin{bmatrix}1&0 &0&0\\0&-1 &0&0\\0&0 &-1&0\\0&0 &0&1\end{bmatrix}$$

すると、 \(Z\otimes Z\) 測定は

$$ \begin{align} \begin{bmatrix}1&0 &0&0\\0&-1 &0&0\\0&0 &-1&0\\0&0 &0&1\end{bmatrix}\begin{bmatrix}1\\0\\0\\0\end{bmatrix}&=1\begin{bmatrix}1\\0\\0\\0\end{bmatrix}\\ \begin{bmatrix}1&0 &0&0\\0&-1 &0&0\\0&0 &-1&0\\0&0 &0&1\end{bmatrix}\begin{bmatrix}0\\1\\0\\0\end{bmatrix}&=-1\begin{bmatrix}0\\1\\0\\0\end{bmatrix}\\ \begin{bmatrix}1&0 &0&0\\0&-1 &0&0\\0&0 &-1&0\\0&0 &0&1\end{bmatrix}\begin{bmatrix}0\\0\\1\\0\end{bmatrix}&=1\begin{bmatrix}0\\0\\1\\0\end{bmatrix}\\ \begin{bmatrix}1&0 &0&0\\0&-1 &0&0\\0&0 &-1&0\\0&0 &0&1\end{bmatrix}\begin{bmatrix}0\\0\\0\\1\end{bmatrix}&=-1\begin{bmatrix}0\\0\\0\\1\end{bmatrix} \end{align} $$

となる。つまり、固有値 \(+1\) となる固有状態は

$$\begin{bmatrix}1\\0\\0\\0\end{bmatrix}=\ket{00},\quad\begin{bmatrix}0\\0\\0\\1\end{bmatrix}=\ket{11}$$

の 2 つの重ね合わせであり、一方、固有値 \(-1\) となる固有状態は

$$\begin{bmatrix}0\\1\\0\\0\end{bmatrix}=\ket{01},\quad\begin{bmatrix}0\\0\\1\\0\end{bmatrix}=\ket{10}$$

の 2 つの重ね合わせである。したがって、 \(\ket{\psi}=\alpha\ket{00}+\beta\ket{01}+\gamma\ket{10}+\delta\ket{11}\) (\(|\alpha|^2+|\beta|^2+|\gamma|^2+|\delta|^2=1\)) に \(Z\otimes Z\) 測定を実施すると、確率 \(|\alpha|^2+|\delta|^2\) で固有値 \(+1\) が得られ状態は \((\alpha\ket{00}+\delta\ket{11})/(|\alpha|^2+|\delta|^2)\) となり、確率 \(|\beta|^2+|\gamma|^2\) で固有値 \(-1\) が得られ状態は \((\beta\ket{01}+\gamma\ket{10})/(|\beta|^2+|\gamma|^2)\) となる。

さて、そのような量子回路は具体的にどのようなものであろうか?明らかに \(Z\otimes I\) 測定をしてから \(I\otimes Z\) 測定をするものではない。それだとここまで書いたような重ね合わせ状態にはなり得ないためである。

では、 \(\mathrm{CNOT}_{10}\) をするとどうだろうか。固有値 \(+1\) の項はともに最初のビットが \(0\) となり、一方固有値 \(-1\) の項はともに最初のビットが \(1\) となる。それならあとは最初のビットに \(Z\) 測定をすれば良いだけである。つまり、 \(Z\otimes Z\) 測定は以下の量子回路と等価である(測定後状態も正しくしたいなら、上と同様に測定後にも \(\mathrm{CNOT}_{10}\) を作用させれば良い):

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他の測定パターン

\(X\) 測定では \(H\)、\(Z\otimes Z\) 測定では \(\mathrm{CNOT}_{10}\) を使ったように、他の測定ではどのようなユニタリを使えば良いだろうか?それらはなんとマイクロソフトのホームページにかなりよくまとめられているので、そのリンクを記載しておく:単一および複数量子ビットの Pauli 測定演算(リンク先の \(\LaTeX\) がすごく崩れてるけどそこは気にしないで)

Z⊗Z⊗Z測定

それなら \(Z\otimes Z\otimes Z\) 測定とかどうなるの?と気になったので書いておく。まず、固有値 \(+1\) となる状態は \(\ket{000}\), \(\ket{011}\), \(\ket{101}\), \(\ket{110}\) の重ね合わせ、固有値 \(-1\) となる状態は \(\ket{001}\), \(\ket{010}\), \(\ket{100}\), \(\ket{111}\) の重ね合わせである。つまり、ビット列に含まれる 1 の個数が偶数なら固有値 \(+1\)、奇数なら固有値 \(-1\) となる。これは \(Z\otimes Z\) 測定のときもそうだったので、 \(Z\otimes\cdots\otimes Z\) 測定にまで拡張できるのだろう、きっと。すると、 \(Z\otimes Z\otimes Z\) 測定を実現するには、 \(\mathrm{CNOT}_{20}\mathrm{CNOT}_{10}\) をしてから最初のビットに \(Z\) 測定をすれば良いということになる。