Outer Wildsに出てくるブラックホールを数式で記述する

May 25, 2022, 3:43 p.m. edited Nov. 28, 2022, 6:57 a.m.

#Outer Wilds  #相対論 

工事中

前は量子をやったので、今回はブラックホールを記述するのが目標。特殊相対論から、リーマン幾何学を用いて一般相対論を導入し、最後にブラックホールを記述する。

特殊相対論を満たす座標変換

相対論(相対性理論)は特殊相対論と一般相対論に分けられ、重力が出てこない簡単な方が特殊相対論、重力が出てきて空間が曲がるようになる方が一般相対論となる(ゆえに、一般相対論のうち重力のない特別な場合が特殊相対論といえる)。そこで、まずは特殊相対論を導入する。

特殊相対論で要請される原理は

  1. 特殊相対性原理:物理法則はすべての慣性系で同じ形で表される
  2. 光速度不変の原理:光の速さはすべての慣性系で同じ値である

の 2 つである。この 2 つが要請されたときにニュートン力学では不十分なことがあることを示す。

はじめに 2 つの座標系 \(\mathrm{S}\), \(\mathrm{S}'\) を考える。 \(\mathrm{S}'\) が \(\mathrm{S}\) に対して \(x\) 軸方向に速さ \(V\) の等速で移動していると、ニュートン力学の考え方では、 \(\mathrm{S}'\) の座標 \(x'\) は \(\mathrm{S}\) の座標 \(x\) を用いて

$$ \left\{ \begin{align} x'&=x-Vt \\ t'&=t \end{align} \right.\tag{1} $$

と表される(これを Galilei 変換という。 \(y,z\) については変わらないので省略)。

ここで、物理法則として電磁波の方程式の電場 \(\pmb{E}\) や磁場 \(\pmb{B}\) にかかる演算子

$$\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2}-\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2}\tag{2}$$

を考える。ここで、 \(c\) は光の速さである。電磁波の方程式は 1. 特殊相対性原理 より、 2 つの座標系(慣性系)で式 (2) は同じ形になるためこの演算子も同じ形になるはずである。これを式 (1) の変換で確かめてみる。

式 (2) に出てくるそれぞれの微分演算子は式 (1) により

$$ \left\{ \begin{align} \frac{\partial}{\partial x}&=\frac{\partial}{\partial x'} \\ \frac{\partial}{\partial t}&=-V\frac{\partial}{\partial x'}+\frac{\partial}{\partial t'} \end{align} \right. $$

となる(偏微分の座標変換の参考)。これを式 (2) に代入すると

$$\frac{\partial^2}{\partial x'^2}+\frac{\partial^2}{\partial y'^2}+\frac{\partial^2}{\partial z'^2}-\frac{1}{c^2}\left(V^2\frac{\partial^2}{\partial x'^2}-2V\frac{\partial^2}{\partial x'\partial t'}+\frac{\partial^2}{\partial t'^2}\right)$$

となり、式 (2) と同じ形にならない。したがって、ニュートン力学として慣れ親しんだ Galilei 変換では特殊相対性原理を満たすことができない。

そこで、

$$ \left\{ \begin{align} x'&=\frac{x-Vt}{\sqrt{1-V^2/c^2}}\\ t'&=\frac{-Vx/c^2+t}{\sqrt{1-V^2/c^2}} \end{align} \right.\tag{3} $$

という変換を考えてみる。すると

$$ \left\{ \begin{align} \frac{\partial}{\partial x}&=\frac{1}{\sqrt{1-V^2/c^2}}\left(\frac{\partial}{\partial x'}-\frac{V}{c^2}\frac{\partial}{\partial t'}\right)\\ \frac{\partial}{\partial t}&=\frac{1}{\sqrt{1-V^2/c^2}}\left(-V\frac{\partial}{\partial x'}+\frac{\partial}{\partial t'}\right) \end{align} \right. $$

となるので、式 (2) に代入すると

$$ \begin{align} &\frac{1}{1-V^2/c^2}\left(\frac{\partial^2}{\partial x'^2}-2\frac{V}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial x'\partial t'}+\frac{V^2}{c^4}\frac{\partial^2}{\partial t'^2}\right)+\frac{\partial^2}{\partial y'^2}+\frac{\partial^2}{\partial z'^2}-\frac{1}{c^2}\frac{1}{1-V^2/c^2}\left(V^2\frac{\partial^2}{\partial x'^2}-2V\frac{\partial^2}{\partial x'\partial t'}+\frac{\partial^2}{\partial t'^2}\right)\\ =&\frac{\partial^2}{\partial x'^2}+\frac{\partial^2}{\partial y'^2}+\frac{\partial^2}{\partial z'^2}-\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t'^2} \end{align} $$

より、式 (2) と同じ形となる。この変換(式 (3))を Lorentz 変換という。

この Lorentz 変換はなかなか見慣れない変換に思えるが、物体の移動する速さが光の速さよりもはるかに遅い場合は見慣れた変換に近似されるはずである。実際に、 \(V\ll c\) のとき

$$ \left\{ \begin{align} x'&=\frac{x-Vt}{\sqrt{1-V^2/c^2}}\sim\frac{x-Vt}{\sqrt{1-0}}=x-Vt\\ t'&=\frac{-Vx/c^2+t}{\sqrt{1-V^2/c^2}}\sim\frac{0+t}{\sqrt{1-0}}=t \end{align} \right. $$

と、慣れ親しんだ Galilei 変換となる。したがって、物体の移動する速さが光の速さに近づくと、時間と空間が混ざり合って変換されるようになるということである。この例として、粒子の寿命と移動する距離の話を以前書いた(この例では逆変換を用いている)。

なお、これ以降は便利のため、

$$w=ct$$

を主に用いる。

特殊相対論で不変な値

Lorentz 変換前後で不変な値として

$$s^2=x^2-w^2$$

を考える。実際、式 (3) を代入すると

$$(s')^2=(x')^2-(w')^2=x^2-w^2=s^2$$

が成り立つ。\(y\), \(z\) を復活させて記述すると

$$s^2=-w^2+x^2+y^2+z^2$$

となる。この \(s\) を距離とみなす。時間の前の符号がマイナスなのは違和感が持たれるかもしれないが、我々の住む時空はこのようになっている Minkowski 空間なのである。

ただし、実は \(s^2\) はまだ特殊相対論としては不変量ではなく、すべての慣性系で一致するためには Lorentz 変換だけでなく、平行移動も考える必要がある。ゆえに \(x'=x+a\) という平行移動を考えると、 \((s')^2\neq s^2\) となってしまう。そこで、接近した 2 点(\((w,x,y,z)\) と \((w+dw,x+dx,y+dy,z+dz)\))間の微小距離

$$(ds)^2=-(dw)^2+(dx)^2+(dy)^2+(dz)^2$$

を考えれば、 Lorentz 変換のもとでも平行移動でも不変量となる。これを線素と呼ぶ。

さらに、 \(w=x^0\), \(x=x^1\), \(y=x^2\), \(z=x^3\) とし、そのうえで \(\eta_{00}=-1\), \(\eta_{11}=\eta_{22}=\eta_{33}=1\), \(\eta_{\mu\nu}=0\) (\(\mu\neq\nu\) つまり対角成分以外は \(0\)) とすると

$$(ds)^2=\sum_{\mu=0}^3\sum_{\nu=0}^3 \eta_{\mu\nu} dx^\mu dx^\nu\tag{4}$$

と表される。ここでアインシュタインの縮約記法を導入する。これは同じ添字同士は和をとるとする約束である。これを式 (4) に使ってみると

$$(ds)^2=\eta_{\mu\nu} dx^\mu dx^\nu$$

とシンプルに書けてとても良い。ここで用いられた \(\eta_{\mu\nu}\) は計量といい、その空間の形を表す量である。特殊相対論のうちは非常にシンプルな対角成分のみの定数だが、重力を含む一般相対論になるとこれが複雑な値となっていく。

一般相対論における曲がった時空

特殊相対論では直線座標である Minkowski 空間を考えていたが、一般相対論ではより一般な曲がった時空を考えることになる。その際に重要な役割を果たすのが計量 \(g_{\mu\nu}\) である。

最も簡単な曲線座標の例として、極座標を考える。直交座標上の点 \((X,Y)=(X^1,X^2)\) は極座標上の点 \((r,\theta)=(x^1,x^2)\) を用いて \(X=r\cos\theta\), \(Y=r\sin\theta\) と表される。さて、線素は直交座標を用いると

$$(ds)^2=(dX)^2+(dY)^2=\overline{g}_{\mu\nu}dX^\mu dX^\nu$$

と表される。ただし、計量は

$$ \overline{g}_{\mu\nu}=\begin{bmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{bmatrix} $$

である。これを極座標で表すために

$$ \begin{align} &\begin{cases} dX=\frac{\partial X}{\partial r}dr+\frac{\partial X}{\partial \theta}d\theta \\ dY=\frac{\partial Y}{\partial r}dr+\frac{\partial Y}{\partial \theta}d\theta \end{cases} \\ =&\begin{cases} dX=\cos\theta dr - r\sin\theta d\theta \\ dY=\sin\theta dr + r\cos\theta d\theta \end{cases} \end{align} $$

を線素の式に代入すると、

$$(ds)^2=(dr)^2+r^2(d\theta)^2=g_{\mu\nu}dx^\mu dx^\nu$$

となる。ただし、計量は

$$ g_{\mu\nu}=\begin{bmatrix} 1 & 0 \\ 0 & r^2 \end{bmatrix} $$

である。このように、曲線座標系になると、一般に計量は定数だけでなく変数を含んだものとなる。今回は最もシンプルな極座標であったため対角成分以外は 0 となったが、一般には非対角成分にも値が入るようになる。したがって、計量は時空の曲がり具合を表す指標となりうることがわかる。この計量を出発点として構成される幾何学を Riemann 幾何学という。

ここで、便利のために微分演算子として

$$\partial_\mu=\frac{\partial}{\partial x^\mu}$$

を導入する。これを用いると例えば、エネルギー・運動量テンソル \(T^{\mu\nu}\) (対角成分にエネルギー密度や運動量密度が含まれる)についてエネルギー保存則と運動量保存則は

$$\partial_\mu T^{\mu\nu}=0$$

と簡潔に表される。この微分演算子を用いて、曲率をより一般化した量である Riemann テンソルを

$$R_{\rho\sigma,\mu\nu}=-\frac{1}{2}(\partial_\sigma \partial_\nu g_{\rho\mu} - \partial_\rho\partial_\nu g_{\sigma\mu} - \partial_\sigma\partial_\mu g_{\rho\nu} + \partial_\rho\partial_\mu g_{\sigma\nu})$$

とする。それからここに計量(上付き添字)を用いて添字を縮約した

$$R_{\sigma\nu}=g^{\rho\mu}R_{\rho\sigma,\mu\nu}$$

を Ricci テンソル、さらに縮約した

$$R=g^{\sigma\nu}R_{\sigma\nu}$$

をスカラー曲率という。また、

$$G^{\mu\nu}=R^{\mu\nu}-\frac{1}{2}g^{\mu\nu}R$$

を Einstein テンソルという。

そして、重力を生み出す物質のエネルギー・運動量テンソルと空間の曲がりを表す計量の関係を

$$G^{\mu\nu}=\kappa^2 T^{\mu\nu}\tag{5}$$

と記述したものが重力場の方程式である Einstein の方程式である(ただし \(\kappa^2=8\pi G/c^4\))。本稿ではかなり天下り的に重要な方程式を与えてしまったが、詳しいことは教科書(例えば「時空と重力」)を読むと良い。上付き・下付き添字の意味や Riemann テンソルとは何か、上で要請した特殊相対論の要請の一般相対論版など重要なことがちゃんと書いてある。やはり教科書を読むべき。

ブラックホールを Schwarzschild の解から導く

Einstein の方程式を解くことは難しいため、これまでいくつか特殊な条件をつけてそのうえで解かれてきた。その中で最も有名なものが Schwarzshild による解の外部解で、これは静的で球対称な空間で、中心に質量分布があり、その外側での解を求めるというものである。

すると、式 (5) は

$$R_{\mu\nu}=0$$

と非常にシンプルなものとなる。これを球面座標系を用いて解くと、計量は

$$(ds)^2=-\left(1-\frac{a}{r}\right)(dx^0)^2+\frac{1}{1-a/r}(dr)^2+r^2(d\theta)^2+r^2\sin^2\theta(d\varphi)^2$$

と表される。ただし、 \(a\) は質量 \(m\) を用いて \(a=2Gm/c^2\) であり、 Schwarzshild 半径と呼ばれる。実際に、 \(r=a\) のとき、

$$ \begin{align} g_{00}&=-\left(1-\frac{a}{r}\right)=0 \\ g_{33}&=\frac{1}{1-a/r}=\infty \end{align} $$

と特異なことになる。この境界を越えて \(r\leq a\) となるところがブラックホールとなる。

ここで重要なことは、かなり質量 \(m\) が大きくないと \(a\) に意味がなくなってしまうことにある。例えば地球の質量は \(m\simeq 6\times 10^{24}\) kg であるため \(a\simeq 0.9\) cm となる。これは明らかに地球の半径よりも小さく質量分布の内側に入ってしまうため外部解として適切ではない。私たちの星系の太陽ですら同様である。ゆえに、ブラックホールとなるためには中性子星のような原子核内部ほどの質量密度をもつものが、さらに自重のために重力崩壊するくらいでないといけないのである。

<ここから先は工事中>

問題: 空間的にも時間的にも長距離の移動を可能とした師弟の名前は?(師匠・弟子の順番にスペース空けずに続けて、すべて小文字で。〇〇△△△みたいな感じに)

ここから先は Outer Wilds ネタバレ要素が入ってくるので

hogehoge

その他の例として、主人公くんの探査艇を考える。この探査艇はいつまでも加速できるが、 22 分以内では \(-7\times 10^4\ \mathrm{m/s}\) 程度が限界であり、到底光の速さには及ばない(「試す価値はあった。」)。そこで、仮に Slate により強力なジェットを作ってもらい、光速 \(c\sim 3.0\times 10^8\ \mathrm{m/s}\) に係数 \(a=0.998\) を掛けた速さ \(ac\) まで加速できるようになったとする。このとき、主人公くんが速さ \(ac\) で星系から一直線に脱出を試みると、灰の双子星で \(t=22\) 分経つまでに主人公くんが過ごす時間は

$$ \begin{align} t'&=\frac{-Vx/c^2+t}{\sqrt{1-V^2/c^2}}\\ &=\frac{-ac\cdot act/c^2+t}{\sqrt{1-(ac)^2/c^2}}\\ &=\frac{1-a^2}{\sqrt{1-a^2}}t\\ &=\sqrt{1-a^2}t\\ &\sim 0.0632 \times 22\ \mathrm{min}\\ &\sim 1.39\ \mathrm{min} \end{align} $$

となり、たったの 1.4 分しかなくなってしまう。ゆえに、ほぼ光の速さで動くような星や遺跡がなくて良かったなぁという感想が得られる。

ここで、物理法則の例として電磁波の方程式を挙げた際、演算子のみ考え、電場や磁場を掛けた \(=0\) となる方程式自体を考えなかったのは、







一般相対論

特殊相対論では考えなかった、重力を考慮すると一般相対論となる。

piyopiyo